インタンジブルを深める




   申年  
     
 

「見ざる」「言わざる」「聞かざる」。日本語では「さる」の掛け言葉になっていますが、英語にもあって、“See no evil, hear no evil, say no evil” と言うのだそうです。長い手でそれぞれ口、耳、目をふさぐことができる三匹の猿たちの姿をかりて、余計な面倒にまきこまれず人生を上手に送るための知恵を説いた昔から伝わる処世訓ですね。

一年の計は元旦にありといいます。今年もいい年になるよう、この三猿哲学を思い出し、実行していくのも悪くないと思いませんか?民主主義の世の中にそれは違うよという人もいるでしょう。「しっかりこの目で確認して」「意見はきっちり言わなければ」「人の言うことばかり聞かないで自分の思ったことを言う」のが大切だと。でも、賢い人なら3匹の猿の哲学がもっと奥深いところにあるということにすぐ気が付くはずです。

生まれたときは、「見えない、言えない、聞けない」状態ですが、自我が発達してくると、子供であっても、「見たいものは見て、言いたいことは伝えて、聞きたいことだけは聞く」ようになります。自分を中心とした世界が芽生えてくるからです。

大人になった、さあ、どうでしょう。見なくていいことも見てしまい、言いたいことも必要以上にしゃべってしまい、聞きたくないことや情報がいやでも入ってくる。社会の中で生きるためにも、人間関係を結ぶためにも必要な姿勢かもしれませんが、さらに人生の新しい境地をひらくためには、「適当に」「事と次第によっては」という風に、三匹のお猿さんにならって、上手にバランスをとっていきたいものです。

私たちも、毎年ひとつ、ひとつ年をとってくると「見ざる」「言わざる」「聞かざる」が世を渡るうえで大切であると気づいてきます。見たがゆえに、言ったがゆえに、聞いたがゆえに、いやな思いをすることをたくさん経験するからです。三猿哲学を実践しようすると、けっこうストレスになります。意志に反してエネルギーをセーブするわけですから修行しているようなもの。上下関係においても、親子間、夫婦間、友人同士でも、この心技を上手に使えたら、あなたの成熟度は見事なものです。こうなれば、あなたは人生の有段者、柔道なら、「黒帯」です。役者が実年に比べ一枚上手です。この段階であなたは、不思議な「インタンジブル・パワー」の免許皆伝です。

このとき、あなたのストレスはかなり軽減されていることでしょう。摩擦の起きるような余計なエネルギーを使わず、ごたごたやトラブルに巻き込まれなくてすむからです。環境にやさしいエコカーの気分です。気持ちよく、軽快に走ります。無形の力がどれほどあなたを見えないところで支えてくれるか実感することでしょう。

ぜひ私たちも三猿哲学を上手に取り入れて人生を豊かにしたいものです。でもお猿さんたちと張り合って、くれぐれも木から落ちないようにご用心。

今年が皆さまにとっていい年でありますように。
 
                                                        K.Yamakawa