インタンジブルを深める




   富士山  
       
 

下界の猛暑から逃れて富士山麓の別荘に来ています。
夏の夜の富士山は、山小屋と登山者のライトで光の海です。海外からの登山者も多く、地元の富士吉田市には登山6000回以上という記録保持者もいるそうです。 

世界最高峰のエベレストをはじめとして標高の高い山にシェルパに助けられて登山するのはプロ級のアルピニスト。一方、富士山は一晩に7000人もの一般人がチャレンジできる山です。富士山のいいところは3776メートルというその高さ。登山しようと思えば、かなりの年配者でもチャレンジできるのがいいところです。南から仰ぎ見ると着物の裾を引いたような女性的な稜線、北からは荒々しい「男富士」の雄大さが楽しめます。春夏秋冬、桜、雲、紅葉、雪など季節ごとに変化する圧倒的に美しい姿は見るだけで幸せを与えてくれます。

西に太陽が傾く頃の「赤富士」は素晴らしい。麓まで雪に覆われた富士に月の光が輝き、かなづちでたたけばキーンキーンと金属音がするように凍てついた真っ白の富士の姿は、威厳にみちています。

富士山は休眠状態だが、内部にマグマをためている山だから、いつ噴火するかわからない。それが人々をひきつける魔力かもしれません。これらはすべて富士山のタンジブルな面です。

単なる観光スポットとしての魅力や登頂への挑戦が、多くの人たちをひきつけているだけではありません。富士山は底知れぬインタンジブル・パワーを持つ山なのです。古来より、信仰の山として日本人が歴史的、文化的に大切にしてきたこの霊峰は、精神的なよりどころ、日本人の故郷でもあるのです。ネガティブな気分になったとき、富士山を仰ぎ見るだけで気分が変わる。富士山の持つインタンジブルなエネルギーは私たちをその霊気で引っ張り上げてくれます。

頂上から望むご来光は富士山が太陽のエネルギーを華麗荘厳に見せてくれる神秘の一大ページェント。山と太陽のコラボレーションである。これを一度経験すると毎年登山したくなるそうです。夜明けに東の雲の間からぽっかり金色の太陽が顔を出すと感極まって、思わず手を合わせ、全員が歓声をあげる。その瞬間に居合わせたことの幸せは登山した人のみぞ知る大きな喜びだと聞きました。 

まだ登頂を果たせずにいますが、麓から今日もあおい仰いで大満足。山から与えられるタンジブルインタンジブルのエネルギーを十二分に満喫しています。

 
                                                        K.Yamakawa    
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