インタンジブルを深める




   魅力  
   
 

ジョン・シンガー・サージェント(1856-1925)はイタリア生まれのアメリカ人画家でコスモポリタンとして知られています。そのサージェントが制作した“マダムX”の肖像画(マダム・ゴートロー夫人)が、パリのサロンでスキャンダルを巻き起こしたことは有名です。画家はパリにいられなくなり、ロンドンに移り住みました。金のストラップの黒いドレスを着て、ふん、と言わんばかりの見事な横顔に男性はひれ伏したくなり、女性は嫉妬心をかきたてられたほどの魅力あふれる肖像画だそうです。もし、それを確認したかったらニューヨークのメトロポリタン美術館に行くしかありません。世界の男女をうならせる肖像画、私も一度この目で見てみたいと思います。

いったい、魅力とは何でしょう?

見ることができるタンジブルな美しさも大切、されど、触れて、見ることのできない魅力は、それを放つ本人が意図せず香りたたせる空気のような天性のものです。周囲に発散する無計算で人を惹きつける力、なんと秘められたインタンジブルパワーなのでしょう。本人自身さえ気づいていないのですから。

しかも、魅力はそれを受け取る相手がいて、初めて発揮できる力です。相手の感受性というインタンジブルな力があってこそ価値を発揮します。そんな魅力は、いったいどういうところに潜んでいて、どういう場面で相手の感受性に火をつけるのでしょう。

どんなにお化粧をほどこしても、ブランド品を身に着けてもセンス自体がなかったらダメ。ルックスがよくても、立ち居振る舞いが悪ければそれもだめ。会話ができても知性、教養がないとダメ。年齢とともに下降する美しさも成熟した人格や気品を磨いていればタンジブルを凌駕するパワーになる、という風にすべてがインタンジブル、見えないのが魅力です。鏡の前に立てばあなたの外見の美しさは映っても、魅力は映りません。

私はマリリン・モンローもとても魅力的だと思います。ダム・ブロンド、セックスシンボル、金の卵、要人のお相手など、さんざんな形容詞をはりつけられ、創られた面がマリリンのすべてと思うなら、魅力を見分けるあなたの感受性は鋭いとは言えません。

天性の無邪気さ、無頓着さ、仮面の裏の傷つきやすいデリケートさ、意志の強さなどマリリンは外から見えない魅力でいっぱいでした。クジャクの羽を広げたようなハリウッド風のマリリン、本当はカナリアのようだったといわれています。マリリンはこんな言葉を残しています。「あなたは自分の中身によってではなく、外見だけで判断されるのです。一つのキスには1000ドル支払っても、魂には50セントしか支払わないのがハリウッドです」クールに見つめてそう言い切るマリリンの知性にも魅力を感じます。

ここに二人の魅力的な女性のエピソードを紹介しました。紙面が許す限り、魅力的な男性たちのことも書きたかったのですが、次回に回します。

でも、とっておきの魅力的な男性の筆頭“ムッシューX”こそ、今は亡き主人なのです。

 
                                                        K.Yamakawa    
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