インタンジブルを深める




   アマゾンで爆買い  
   
 

指一本でマウスをクリックすればなんでも手に入る時代です。いまなら、どんな愛、道ならぬ愛だって手に入るかもしれません。アガサ・クリスティーが生きていれば「マウス・クリック殺人事件」という推理小説を書くことでしょう。

残念ながら私に彼女の才能がありません。そこで私が巻き込まれた「アマゾン爆買い事件」について書くことにします。コロナで外出もままならず、この3年間とじこもっていたおかげで、指一本で生活雑貨も、食料品も、本やCDもDVDも手に入る方法を身につけました。

これほど便利なものはないと、遅まきながら大発見した私でした。いまやその素晴らしさをフルに体験出来ています。「爆買い」は中国の人たちだけの専売特許ではありません。気が付いたら私も「ネット爆買い族」の一人になっていました。

一回買い物すれば、私の買い物の内容を分析して、次々情報を提案してくれるからつい乗ってしまいます。本なんて、新品でなくても消毒済みのきれいなのが1円というのもあります。送料が350円かかるので351円で単行本が変え、鼻高々です。財布もいらない、足を運ばなくていい。注文した翌日には自宅に届く。ポストに入っている。ジェフ・ベゾス夫婦が古本の販売からオンラインショップを始めたそうですが、日本の一老人もふたりの構築したビジネスにまんまと引っ掛かりました。

久しぶりに故郷に帰ったら、なんと昔いちばん華やかだった商店街が、シャッター街と化しています。おしゃれして出かけ、世間話をしながらお店で買い物をしていた文化もなくなり、若者はショッピングセンターやしゃれた大型のスーパーでしか買い物しないし、私の様な年寄りでさえネットショップをするご時世ですから、シャッターが下りるのも無理はありません。買い物文化は世相を反映しています。変化していないのは、昔、栄えた店のオーナーの頭の中だけ。買いなれたお店でオーナーにお茶を頂いたり、おまけをもらったりした、懐かしい買い物風景は甘美な思い出と消えてしまいました。

シャッター街の前を通る時、商店や商店街を閉鎖に追い込み、空洞化させてしまったことに多少の痛みを感じます。

時代の流れに押し流されてゆく私たち。インタンジブルな力がはたらいているのでしょう。知らないあいだに見えないどこかに流れてゆく力に私たちはあらがえません。

今年は現金を持たず、カード決済の仕方を学ばなくちゃ。ペイペイでポイポイ買ってしまうのは怖いけれど、ゴソゴソ財布からお金を出して支払うのも怖くなりました。若者はちゃっかりポイントをためるそうです。せめておまけの代わりにそれも教わらなくちゃ。

ああ、もう、もどれない!

導かれるままに前を向かなくちゃ。

抵抗したら、私の前でシャターが閉まるだけ。

 
  山川和子(フェイラージャパン創業者)      
                                                         
     
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