昔、パリのパルフュムリ(香水店)で働いていた時、日本人男性のグループが10人ほどで来店されました。
うかがえば、この人たちは誰にも真似できない特殊な技術を持っていて、フランスからお呼びがかかったそうです。その特技とは、ヒヨコのオス、メスを選別することで、日本人はそれに特化しているそうです。1羽につき、わずか数秒。その目的が何なのか、ずっと不思議に思っていましたが、つい最近そのわけを知りました。 なんと、オスはかわいそうに捨てられて、メスだけが鶏舎で産卵するため生かされるというのです。
一生のうちにいったい何個ぐらいメスは卵を産むのでしょうか。1日1個と聞きましたが、それでは、365個を1年で生むことになるのか、そのペースで何年ぐらい続くのか、質問はいっぱい出てきます。
メスの産卵が旺盛な期間は7年ぐらい。数日間、卵を産み続け、3日間産休を取るそうです。1年に300個ぐらいが平均だそうです。オスから受精した卵は有精卵と言うそうですが、数が少ない。コケコッコーと大声を出して鳴き、メスにアピールするのは、クジャクのオスが派手な羽を広げてメスの注意をひくのと同じですが、メスはコッコッコと静かな反応です。生き残りの少ないオスは可哀そうです。でも1年に300個もあらん限りの体力を使って卵を産むメスも可哀そう。
最近、「物価の優等生」といわれてきた、卵の値段が上がりました。今までは食料の中では安く、栄養価も高く、卵なくして料理なしと言うくらい頑張ってくれているニワトリが、インフルエンザで1700万羽も殺されたのを聞くと胸が痛く、卵かけご飯のお箸が止まってしまいます。
ぎゅうぎゅう詰めの鶏舎の中で卵だけ産んで死んでいくニワトリ。当たり前のように食べていた卵に手を合わせたい気持ちです。
これほど活躍して人間に役立つ生き物はありません。鶏肉、卵として、皮から内臓、骨、さらに鶏糞まで肥料として私たちに提供してくれています。フランスでは鶏の髄を斜めにすぱっと切り、爪楊枝を作って、高級品として薬局で売っていました。最近の技術で卵殻の成分もお化粧品に活用されています。ニワトリはタンジブル・バリューにおいて「ナンバーワン」の生き物です。
子供のころ、ラジオで漫才師が、「鶏死んだら何残す?」「共同募金の赤い羽根、のーこーす」と言っていたのを聞いて兄たちと、ゲラゲラ笑っていた事さえ、罰当たりだと思い、後悔しています。私は1年に1日、トリの日を設定して、せめて、ニワトリを祭ってあげたいと思います。
ニワトリの一生は人間への警告です。食糧難に向かう21世紀、ニワトリに啓発されて、色々なことを考えてしまいます。
そして、「人間死んだら何残す?」とニワトリに問われれば、はた、と答えに詰まってしまいます。この超インタンジブルな質問に正面からから向き合っていきたいと考えています。
ニワトリにくらべ人間は残すものがほとんどありません。
人間がただひとつ残すとすれば、タンジブルな遺産でしょう。多くても少なくても、争いしか残しません。
正解じゃありませんか?
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