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『なにひとつ一人では成し得ない』
―インタンジブルなエネルギーを借りる―

若くして会社を興した私には、資金も、人脈も、経営の心得すらありませんでしたが、 会社は右肩上がりに成長し、40年後、気がつけば世間が認める「成功」を収めていました。それには、がむしゃらな情熱ややる気だけで困難や不況を乗り越えたのではなく、それなりの理由があったからです。

―その理由とは?―
ひと言でいえば、インタンジブル・パワーから放たれるエネルギーの使い方がうまくいったのだと思います。一人の人間が出せるエネルギーには限界がありますが、他のエネルギーと合体させ有効に燃やすことにより、さらなる核分裂を引き起こし、可能性がどんどん広がってゆくという経験をしました。この単純な方法を実行したおかげで、結果的に、会社が発展し、社員にも自分のためにもなりました。それには、普段から、もの、人、事を深く見つめる習性と、自らが出すエネルギーは有限であることを知る謙虚さ、この2つの条件が必要です。物を持たない、知識がないことは悪いことではありません。
私のスタート時点のように…

さて、私の大切にしてきたインタンジブル・パワーから出るエネルギーの筆頭に挙がるのは「ビジョン」です。「ビジョン」から湧き出るエネルギーは、あなたを望む方向に引っ張ってくれます。方向が定まらなければエネルギーは行き場を失い、停滞し、やがて、消滅してしまうでしょう。人生も仕事も目的に向かってエネルギーを出している限り、大きくブレることはありません。

『なにひとつ一人では成し得ない』とき、人の助けや他組織とのコラボレーションが数倍の力を生みます。私は、これを経験上知ることができました。この現象を「感応道交」という言葉に置き換え、会社のビジョンとして掲げたのです。

「責任」という言葉には、重い響きがのしかかっています。ですが、これだって大きなエネルギーなのです。問題が起きたときに取る任務や責務だけではなく、それを遂行するにあたり、この言葉が前提にあれば、そもそも無責任な行動は取らないはずです。いわば習慣化して使うエネルギーです。これにより、コンプライアンス問題はグンと減り、「信用・信頼」という新たなエネルギーも有難いかな、くっついてきてくれます。

そんなわけで、なにひとつ有形のものを持たずスタートしたことは、エネルギーを無意識的に使いまくる好条件だったといえるでしょう。

仕事で壁にぶちあたったとき、"自然の摂理ならどの方向にエネルギーが流れるのだろう"とよく考えたものでした。"水は高いところから低いところに流れ、始めがあれば終わりがある"この一見あたりまえなこともエネルギーの大きな流れです。これに気づいたとき、自然の摂理こそがインタンジブル・パワーの法則であり、エネルギーは見えないけれど存在することに思いあたりました。この考えは、その後、仕事上ではもちろん、個人的にも未経験で無一文の私の最大の導き手となりました。

"一番になる" "より多く儲ける" "人より秀でる"など「見える形」で成功を望むならそれもよし。ただし、インタンジブル・パワーから出るエネルギーを上手に使わなければ結果は出せません。自分の持つエネルギーを過信すれば、傲慢という負のインタンジブル・パワーに支配され、恐ろしい結末が待っています。でも悲しいかな、世の中はこちらの方向へ舵をきっているのが現実です。

「インタンジブル」を少しでも理解できたあなたなら、そろそろこの抽象的な概念を「ビジョン」「感応道交」「責任」「信用・信頼」「チャレンジ」といった具体的な言葉に置き換えて、各々から繰り出すパワーのあり方や使い方について、もっと知りたくなったでしょう。

「インタンジブル」という言葉!企業経営用語だけにとどまらず、幅広い解釈で人生に…仕事に…大いに役立てて欲しいと願っています。
山川和子